その星をつかむまで【1】

電車を降りると春を感じた。
頬に触れる風が昨日までとは違ってどこか柔らかい。
またひとつ季節がめぐるのを肌で感じながら、人波に流されるように改札へと向かう。

4月になって間もない晴天の土曜日。実家のある地元の駅に来たのは久しぶりだった。
いつも以上に混雑した駅の改札を出て、待ち合わせ相手の顔を探す。壁際を埋めるように並ぶ人の中に、目鼻立ちの整ったボーイッシュな女子大生は見当たらない。

待ち合わせの時間まではあと5分ある。壁際の空いたスペースに寄り、彼女の到着を待つことにした。

待ち合わせの相手、紘子ちゃんとふたりで会うのは初めてだった。会うこと自体2度目で、初めて会ったのはもう2年以上前になる。

おぼろげな記憶を頼りに、目の前を行き交う人波の中にその姿を探す。
全体像はぼんやりとしか思い出せないのに、私を睨むようなあの目だけは見たらすぐにわかるような気がした。

たくさんの人を目で追ううちに、いつのまにか脳裏の女の子がまったく別の面影にすり変わる。
ボディパーマをかけたような緩やかな癖のある髪。どことなく華奢な肩のライン。そのくせ、広い背中。ルーズに羽織った白いカーディガンに、ぺちゃんこの学生カバン。
似た人を見つけてはどきりとし、顔を盗み見てはやっぱり違うと安堵する。

「麻美さん!」
名前を呼ばれてハッとした。
目の前で若い女の子が私を睨んでいる。
セミロングのチョコレートブラウンの髪に、整った顔立ちをさらに強調するアイメイクの目が、いつかと同じように私を睨むように見ている。
「紘子、ちゃん?」
短めのボブで化粧っけなしで、制服を着ていてもボーイッシュなイメージしかなかった彼女は、すっかり垢抜けて今時の女子大生になっていた。メイクだけではなく、流行りの雑誌から抜け出たような装い。若さというきらめきに、驚きよりも軽い惨めさを覚えた。

「何ボーッとしてるんですか。お腹空いたんで早く行きましょ」
だけど外見が変わっても私への敵対心は健在のようで、彼女はひとり背を向けてショッピングモールの方へ足早に歩いて行く。

一瞬遅れ、私も彼女の後を追った。
あふれ返る人波をぬうように進む紘子ちゃんの後を追い歩いていると、不意に残像とともに過去の感覚がよみがえってくる。
駅の構内、時折見かける制服姿の高校生たち。
肌で感じる空気も匂いも雑踏も、何もかもがあのころと同じようだった。

春の陽気に記憶が入り混じっていく。
もしかしたらどこかにいるんじゃないか、そう思って、目が、脳が、面影を探してしまう。

あれからもう2年半。
制服なんて着ていない、こんな所にもいるはずがない。
頭ではそう、わかってはいても。

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