
その星をつかむまで【3】
「そういえば私、この前アメリカに行ってきたんです」
ぽつりと、ひとり言のように紘子ちゃんが言った。 一瞬、周囲のざわめきが消えたような気がした。 声につられて前を向くと、その日初めて紘子ちゃんと目が合う。
「そうなんだ。旅行?」 今度は私が目をそらした。もう...

その星をつかむまで【2】
駅のショッピングモールの中層階にあるイタリアンの店に着くと、並んでいるお客さんには目もくれず、紘子ちゃんは店内へと入っていった。
外で待っていると紘子ちゃんが出てきて私を見てあからさまに顔をしかめた。そして「何やってるんですか、早くしてください、席あるんで」...

その星をつかむまで【1】
電車を降りると春を感じた。
頬に触れる風が昨日までとは違ってどこか柔らかい。
またひとつ季節がめぐるのを肌で感じながら、人波に流されるように改札へと向かう。
4月になって間もない晴天の土曜日。実家のある地元の駅に来たのは久しぶりだった。 いつも以上に混雑した駅の改札を...

その星をつかむまで【0】
あのころ、私たちは薄暮の空をよく一緒に見ていた。 昼と夜の狭間で、星を見つけると彼はいつも空に向かって手を伸ばした。 何をしているのか尋ねると、彼は星を見たままこう答えた。 「あの星をつかまえてる」
その時の横顔は今でも覚えている。 目が、眼差しが、きれいだと思った。...